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大阪地方裁判所 平成元年(わ)4532号 判決

主文

被告人を免訴する。

理由

一  本件公訴事実は、「被告人は、平成元年九月二四日午後一時三二分ころ、道路標識によりその最高速度が七〇キロメートル毎時と指定されている大阪府三島郡島本町大字東大寺名神高速自動車国道本線上り四九八・五キロポスト付近道路において、その最高速度を九〇キロメートル越える一六〇キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行したものである。」というものである。

二  検察事務官作成の前科調書及び略式命令謄本によれば、被告人は、「平成元年九月二四日午後一時二二分ころ、道路標識によりその最高速度が八〇キロメートル毎時と指定されている大阪府吹田市岸部北四丁目名神上り五一七・九キロポスト付近道路において、その最高速度を六五キロメートル越える一四五キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行した。」という道路交通法違反の罪により、平成元年一二月八日大阪池田簡易裁判所で被告人を罰金一〇万円に処する旨の略式命令による裁判を受け、右裁判は平成二年一月五日確定したことが認められる。

三1  被告人の当公判廷における供述、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、司法警察員作成の速度違反認知カード及び捜査報告書、交通事件原票中の司法警察員作成の捜査報告書部分及び被告人作成の供述書部分、大阪府公安委員会作成の大阪府公安委員会告示(抜すい)の謄本並びに略式命令謄本によれば、被告人は、平成元年九月二四日午後一時過ぎころ、普通乗用自動車を運転し、大阪府吹田市の名神高速自動車国道を進行していたが、友人との待ち合わせの時間が迫っていたため急いでいたことや道路状況が閑散であったことなどから、時速約一四〇キロメートルの高速度で進行するに至り、同日午後一時二二分ころ、道路標識によりその最高速度が八〇キロメートル毎時と指定されている前記二記載の場所を時速一四五キロメートルで進行したため、同所に設置されていた速度違反自動取締装置により写真撮影をされたが、当時サングラスをかけていたので、写真撮影されたことに気が付かないまま、その後も時速約一四〇ないし一五〇キロメートルの高速度で進行し、途中名神上り五〇五キロポスト付近道路から五〇一キロポスト付近道路までの約四キロメートルの急カーブ(指定最高速度七〇又は八〇キロメートル毎時)において、事故発生の危険を避けるため、時速約一〇〇キロメートルないしはそれを下回る速度に減速して進行した以外は、前同様の理由により、時速約一四〇ないし一六〇キロメートルの高速度で進行を続け、同日午後一時三二分ころ、道路標識によりその最高速度が七〇キロメートル毎時と指定されている公訴事実記載の場所(前記二記載の場所から約一九・四キロメートル離れた地点。なお、被告人は、右地点の指定最高速度は、前記二記載の場所と同様八〇キロメートル毎時であると認識していた。)を時速一六〇キロメートルで進行したため、再び同所に設置されていた速度違反自動取締装置により写真撮影されたが、その際も写真撮影されたことに気が付かなかったため、高速度のまま進行を続けたことが認められる。

2  そして、本件公訴提起にかかる速度違反と前記二記載の速度違反とは、前記のとおり、日時・場所を異にしており、また、進行速度および速度超過の程度も多少相違が見られ、さらに、被告人は途中約四キロメートルの急カーブでかなり減速して進行しており、指定最高速度まで減速したかどうかは明らかでないにしても、少なくとも甚だしい速度違反の状態は右急カーブの地点で一旦解消されたといえるから、右各速度違反は一応別個の行為であると認められる。

3  しかし、被告人の速度違反の動機は、公訴事実記載の地点と前記二記載の地点において全く同一であるのみならず、右各地点間の全行程を通じて一貫しており、また、右各地点における進行速度差は一五キロメートル、速度超過の差も二五キロメートル(公訴事実記載の場所における指定最高速度についての被告人の認識を基準にすれば一五キロメートルの差。)に過ぎず、右各速度違反の日時・場所も、時間にして一〇分、距離にして約一九・四キロメートルと比較的近接しており、さらに、被告人は、途中約四キロメートルの急カーブで前記認定の速度に減速して進行した以外は、終始時速約一四〇ないし一六〇キロメートルの高速度で進行し、しかも、右減速進行した理由は急カーブという自然的・物理的障害によるもので、右急カーブの地点で客観的には甚だしい速度違反の状態が一旦解消されているとはいえ、右地点で速度違反の犯意の断絶があった、すなわち、当初の速度違反の犯意が右地点で一旦解消され、右地点を過ぎる直前あるいは右地点を過ぎてから、新たに甚だしい速度違反の犯意が発生したと見るのは困難であるから、右二個の速度違反は、時間的・場所的に比較的近接した地点において、包括的犯意の下になされたものとして、包括一罪と評価するのが相当である。

なお、近接する二個の速度違反を併合罪とした昭和四九年一一月二八日の最高裁第二小法廷決定(刑集二八巻八号三八五頁)は、本件と事案を異にしているから、右判断の妨げとなるものではない。

4  従って、本件公訴事実については、包括一罪の一部につき既に確定裁判があったことになるから、確定判決を経たものとして、刑訴法三三七条一号により、被告人に対し、免訴の言渡しをすることとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 安達嗣雄)

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